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自己免疫性肝炎

自己免疫性肝炎とは

免疫機構は、生体内で病原体などの非自己物質やがん細胞などの異常な細胞や異物を認識して攻撃・排除することにより、生体を病気から保護する多数の仕組みが集積したものです。この機構が何らかの原因により異常をきたし、自己の正常な細胞を標的に攻撃・排除してしまうことにより生体に異常が生じてしまう病態が、自己免疫疾患と呼ばれるものです。自己免疫疾患には標的となる細胞(臓器)により、様々なものが知られています(代表的なものに、関節が自己免疫の標的となり炎症を生じる関節リウマチや、甲状腺が標的となる慢性甲状腺炎などが挙げられます)。

自己免疫性肝炎は、肝細胞がこの自己免疫機序により障害され、肝臓に炎症を生じると考えられている病気です。急性肝炎様に発症する場合もありますが、多くは慢性に経過する肝炎で、中年以降の女性に好発することが特徴です。診断には肝炎ウイルス、アルコール、薬物による肝障害、および他の自己免疫疾患による肝障害などを除外して診断します。国際的には、様々な項目を点数化し合計点数により診断する診断基準(スコアリングシステム)が用いられていますが、項目数が多いことから日常臨床での利便性をかんがみて、簡易型スコアやわが国独自の簡便な基準もあります。治療には副腎皮質ホルモン(ステロイド)が第一選択で、他の免疫抑制剤なども使用されます。我が国では難病に指定されておりますが、認定要件はおおよそ中等症以上になっています。 他の自己免疫疾患の合併はおよそ1/3の症例でみられ、合併頻度の高いものとしては慢性甲状腺炎(9%程度)、シェーグレン症候群(7%程度)、関節リウマチ(3%程度)があります。比較的稀ですが別項で述べる原発性胆汁性胆管炎との重複例(オーバーラップ症候群)も知られています。

自己免疫性肝炎の症状と経過

自己免疫性肝炎の症状

初発症状としては、我が国での統計では倦怠感が60%と最も多く、次いで黄疸(35%)、食思不振(27%)がこれに次ぐとされています。またHBVやHCVによるウイルス性肝炎では通常ない関節痛、発熱が初発となる場合もあります。実際には自覚症状がなく、健診などで偶然発見されることも少なくありません。

慢性期の身体症候としては、自己免疫性肝炎に特徴的な症状はなく、他のウイルス性慢性肝炎同様に全身倦怠感 、疲労感、食欲不振などの症状があります。肝硬変へ進行した状態では、下肢のむくみ、腹水による腹部の張りや吐血(食道静脈瘤からの出血)などの症状がおきることがあります。

自己免疫性肝炎の経過

上記したように、この疾患は急性発症以外自覚症状が乏しい場合が多いため、健康診断などで偶然に発見されることがしばしばあります。しかし、適切な治療が行われないと、他の慢性肝疾患に比べて早期に進行し肝硬変から肝不全に至ることも稀ではありません。適切な治療を施された患者さんのほとんどでは、肝臓の炎症が沈静化し、病状の進行を食いとどめることが可能です。予後を良好に保つためには血清トランスアミナーゼ(AST、ALT)値の持続正常化が重要であり、繰り返す再燃は予後不良(肝不全、肝がん)につながります。日本での調査では、適切な治療を受け、肝機能検査値が安定している自己免疫性肝炎患者さんの長期予後は良好で、死亡率は一般人口の死亡率と差のないことが示されています。

自己免疫性肝炎の検査

急性肝炎型自己免疫性肝炎などを除き、多くの例では症状はほとんど出ないため、偶然の血液検査での肝機能障害を契機に発見される場合が多いようです。血液検査では通常の肝胆道系酵素(AST、ALT、ALP、γ-GTPなど)上昇に加え、免疫グロブリン(IgG型)高値や、代表的な自己抗体である抗核抗体が陽性であることなどが診断の基準となります。また診断に有用な検査法として肝生検が挙げられます。他のウイルス性肝疾患などでも行われますが、とりわけ自己免疫性肝炎においては、組織所見は診断基準における重要な項目ですので、可能な限り治療開始前に施行することが望ましいと考えられます。その他、病気の進行度の判定に関する非侵襲的検査(血液検査や画像診断検査)としては、他の慢性肝疾患同様のものが用いられます。

自己免疫性肝炎の治療法

概要で触れましたが、治療の基本は免疫抑制薬の内服で、まず副腎皮質ホルモン(ステロイド)という飲み薬を使用します。通常、発症時には0.6mg/kg/日(病状が重い場合には0.8~1mg/kg/日)服用します。一般的にはステロイドの総量が30mg/日を超える投与量の期間は、感染対策等のため入院での管理が必要です。治療の目標は肝機能検査値、ことにALTと、IgGの正常化です。多くの場合、ステロイドに対する反応は良好で、肝機能検査値は速やかに改善しますので、経過を見ながら投与量をゆっくり減らします(通常5~10mg/日まで)。ステロイド治療に反応が乏しい場合、他の免疫抑制剤(アザチオプリン)を使用する例もあります(欧米では治療当初から併用する場合が多いようです)。治療に反応しても、完全に中止すると多くの場合自己免疫性肝炎が再燃し、肝機能検査値が再び悪化してしまうため、数値が安定する最低量のステロイドないしアザチオプリンを維持量として、長期間内服する必要があります。ステロイド減量の途中、あるいは維持量内服中に病気が再燃した場合は、ステロイドの再増量やアザチオプリンの併用を考慮します。

ステロイド内服中は、消化性潰瘍、満月様顔貌、糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症などの副作用が出現することがあり、それぞれの副作用に対する予防、治療を併用することが必要です。ことに中年以降の女性の方は骨粗鬆症を発症するリスクが高いので、定期的に骨密度検査を受けることが望ましいと思われます。

アザチオプリンは比較的副作用の少ない薬ですが、血液中の白血球・血小板の数が急激に減ってしまう(血球減少症)ことがあります。

以上のような薬剤の投与法、副作用についてもよく理解し、病態に応じて併用薬投与を受けることも大切です。これらの薬剤の自己判断による中止は、自己免疫性肝炎の再燃につながるため、きちんと服用することが大切です。

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