夏の塩

2015/06/11

循環器科医長 山崎 明
★掲載年月:ふれあいH25年7月号


これから暑い季節を迎えます。

「熱中症で病院に搬送された人が何名」という報道が目につくようになってくると、「熱中症予防のためには塩と塩分の補給が大切です」という啓蒙も盛んになってきます。

テレビ番組では医学博士が、塩と水分の大切さを説き、暑い時には水分だけでなく塩も多く摂りましょうと説明します。

それに伴い、塩補給商品がスーパーやコンビニ店頭にも数多く並びます。

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皆さんは、テレビの医者も塩を摂れと言っているし、店頭にも塩補給商品がたくさん売られているのだから、夏には塩をたくさん摂る必要があると思っていませんか。

実は、大問題なのです。

なぜ、熱中症予防には塩を摂らなければならないと多くの人が思い込んでいるのでしょうか。
また、医師まで塩が必要と思い込んでいるのでしょうか。


それは「汗がしょっぱいこと」に原因があります。
汗はしょっぱい。
すなわち汗の中には塩分が出ている。
たくさん汗をかけば体内から塩が減る。
だから足りなくなった塩を補給しなくてはならない。

また、熱中症で病院に搬送された方の多くはナトリウム欠乏を起こしている。
したがって塩が足りないから熱中症に陥るのである。


非の打ち所のないよう論理のように思えます。

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ところが、そこには人体のホルモンによる調節が無視されています。
人体にはレニン=アンギオテンシン=アルドステロン系というホルモン系調節機能があります。

これは、塩と血圧を調節するホルモン系です。塩が足りなくなると塩を体内にとどめ、血圧を維持するように働きます。

塩が過剰になると排泄をすすめます。したがって、多量の汗をかいて塩が喪失するような状態になると、このホルモン系が働いて汗や尿から塩を出さないようになるのです。


このことは今から60年前、アメリカの内分泌学者であるコン博士が実証しています。その研究によれば、1日7ℓの汗をかく状態で、1日の食塩摂取を20g、11g、6g、1.9gと減量していった場合、汗と尿への食塩排泄量は徐々に減少し、1.9gでも体内のナトリウム濃度が減少することなくしっかりとバランスが保てました。


また、この研究で減塩後に食塩排泄が減るのは1日から2日遅れることもわかりました。

それではなぜ熱中症患者は塩を喪失しているのでしょうか。

原因は食事です。
炎天下で働く労働者で、熱中症で運ばれてくる方は、水分はしっかり摂っています。
ところが、朝食や昼食を摂っていない方が多いのです。

また、ご高齢の方で、熱中症で運ばれてくる方は、暑さのため食欲が減退し、ほとんど食べられていない方が多いのです。

食塩排泄の調節機能が働くのには1日から2日かかるので、急激な食塩摂取量の低下から調節が間に合わずに塩を喪失し、熱中症を引き起こす要因となるのです。


日本人は世界で一番塩を摂取している民族のひとつです。

その他、塩摂取量が極端に多い民族は中国人と韓国人とこの地域に偏っています。この3カ国は全て1日の食塩摂取量は平均10g以上です。


欧米ではおおむね7~9g。ところが、赤道直下のアフリカでは3~5gと極端に食塩摂取は少なくなります。


このことからも、暑い地域の人々が塩を多く摂らなくても問題ないのですから、夏に塩を心がけて摂る必要はないということがわかるのではないでしょうか。

普通に食事を摂っていれば日本人が塩不足に陥るわけがないのです。

また、高血圧、心臓病などで普段から減塩を心がけている方も、先のホルモン系により過剰な塩分喪失は起こさないように保護されておりますからご安心ください。


余談ですが、「減塩」というキーワードで調べると「減塩は体に良くない」という説が多く見つかります。


旧専売公社関連の著者によるものが多いようです。

原発安全神話と何か似ているように思いませんか?

牛久愛和総合病院 総合診療科
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